「誰も守ってくれない」の疑問点

現在大きな社会問題になっているネット社会におけるプライバシーの問題をテーマとして、なかなか良く出来ていた作品「誰も守ってくれない」(佐藤浩市・主演。2009年。日本映画)について、書いてみました。

この映画、脚本がしっかりしていて、なかなかリアルで、それでいて意外性がちりばめられた展開の、掘り出し物だった。

受験生の高校生が、2人の子供を殺害する。突然その子の家にやってくる警察官、押し掛けるマスコミ関係者たち、中学に通う妹(志田未来)に連絡する教師、(容疑者の実名が報道されるので)マスコミ対策として両親を一旦離婚させ妹に母親の姓を名乗らせるため手続きをとる家庭裁判所の職員などの動きが実にリアルだった。

ああ、子供が犯罪を犯したらこんな風になるのかと、冒頭から目が釘付けになった。その日から、マスコミやネットマニアに追いかけられる妹を、刑事役の佐藤浩市が保護し、身を隠す場所を求めてさまよう。

佐藤の家庭も崩壊寸前。決してかっこよく保護する刑事ではなく、共に苦しみながら生きようとする男として描かれる。

犯罪者の家族の苦しみを描く作品は、例えば東野圭吾の「手紙」などがあるが、この作品は、単純に妹の苦しみを描いているだけではなかった。私には、犯罪者の家族を弾劾するためにあの手この手で居場所を探し出しネットで公開するマニアたちの描写が印象的だった。ネット社会の恐ろしさがとてもリアルに描かれていた。

シナリオで唯一疑問に思ったのは、幼児2人を殺した長男の母親が、いきなり自殺してしまうとことである。

マスコミに追われて親の責任を追及されて苦悩して死ぬのならまだわかるけれど、事件が発覚したその日、事情聴取されている時にトイレで自殺してしまうというのは、あまりにも不自然な描き方だった。いくら気が弱い母親で、ショックが大きすぎたとしても、まだ犯人と確定したわけでもなく、妹もいて家族を守らなければならないはずなのに、自分だけ死んでしまうのは身勝手で無責任すぎる行為だと思った。